皮膚がん発症の新たなメカニズムを解明

発表日時 皇冠体育,皇冠比分2年4月27日(月)11:00~11:20
場所 和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)
発表者

法医学講座 准教授 石田裕子
皮膚科学講座 准教授(病院教授) 山本有紀

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発表内容

概要

皮膚がんとは、皮膚に生じる悪性腫瘍のことである。皮膚は表皮(ひょうひ)、真皮(しんぴ)、皮下脂肪の3つの組織が重なってできている。皮膚がんの種類は多岐にわたるが、その多くが表皮内の組織で発生する。日本人では「基底細胞がん」が多く、次いで「有棘細胞がん」が多い。悪性度が高い皮膚がんとしてはホクロのがんの「メラノーマ」(悪性黒色腫)が知られている。日本での患者数は、近年の生活環境の変化や高齢化社会などが原因となって、増加しているといわれている。皮膚がんの種類によって原因はそれぞれ異なるが、長期にわたる紫外線の暴露(ばくろ)などが原因の一つと推測されているが、未だ明確な原因ははっきりしていない。皮膚がんの治療は、皮膚がんの種類や進行状況など、患者それぞれの状況によって選択肢は変わる。基本的には腫瘍を切除するために手術を行う。手術後は、一般的に痛みがあったり、傷口が開いて出血や感染などの合併症を引き起こすことがあるため、注意深い観察が必要となる。したがって、患者の負担を軽減するような新しい治療法が望まれる。今回われわれは、免疫細胞の遊走に関与するタンパク質であるケモカイン系(CX3CL1-CX3CR1)を制御することが、皮膚がんの発症?進展を抑制することを明らかにし、皮膚がんの新しい治療法開発のための可能性を示した。

1.背景

皮膚は体のなかで最も大きな臓器である。その機能の一つは、熱や日光、外傷、感染などから体を保護することである。皮膚はいくつかの層から構成されているが、大きく分けると表皮(外側の層)と真皮(内側の層)の2つの層がある。皮膚がんはこのうちの表皮から発生してくるが、この表皮は以下の3種類の細胞から構成されている(図1)。

  • 有棘細胞:表皮を構成する細胞
  • 基底細胞:表皮の下層に存在する細胞
  • メラニン形成細胞:表皮の下部に存在し、メラニン(皮膚の色の素となる色素)を作る細胞

図1皮膚がんとは?

皮膚がんにはいくつか種類があり、その種類に応じて発症につながる危険因子が異なると言われているが、その詳細は未だ明らかになっていない(図2)。

図2どんなタイプの皮膚がんがあるのか?

現在皮膚がんの治療は手術療法が主体であり、腫瘍だけでなくその周辺の皮膚まで切除し、場所が広範におよぶ場合は、太ももなどの部位から皮膚を移植する植皮手術を加えて行う。また、状況に応じて化学療法や免疫療法、放射線療法を実施する。さらに、転移の状況によりリンパ郭清(かくせい)を行う。いずれの治療法も、患者の負担は大きく、新たな治療法の確立が望まれる。
皮膚がんの発症?進展にはさまざまな免疫細胞が関与していることから、免疫細胞の遊走に関与するタンパク質であるケモカイン系を制御することができれば、皮膚がんの発症?進展抑制につながると考えられる。そこで、われわれはケモカイン系の1つであるCX3CL1-CX3CR1に着目したところ、CX3CL1-CX3CR1の制御が、皮膚がんの発症?進展の抑制につながることを解明したので報告する。

2.研究手法?成果

【研究手法】

野生型マウスと、遺伝子操作によりCX3CL1の受容体であるCX3CR1を欠損したマウスを用いて、DMBA/TPA塗布による皮膚がんを誘発し、皮膚がん発症におけるCX3CR1の役割を解析した。

【成果】

野生型マウスとCX3CR1遺伝子欠損マウスで乳頭腫の数を比較したところ、CX3CR1欠損マウスで顕著に乳頭腫数が減少していた(図3)。

図3ケモカイン受容体(CX3CR1)が欠損していると皮膚がんが減弱する

皮膚がんでは、その発症や進展に関与するタンパク質であるWnt3やMMP、VEGFが上昇することが知られており、これらを産生する細胞の一つが白血球マクロファージ(M2型)である。CX3CR1欠損マウスでは、野生型マウスと比べて皮膚へのM2型マクロファージの遊走が明らかに減少しており、Wnt3やMMP、VEGFの発現も顕著に減弱していた(図4)。

図4ケモカイン受容体(CX3CR1)が欠損しているとM2マクロファージの集積が減少する

以上のことから、CX3CL1-CX3CR1系が皮膚にM2型マクロファージを遊走させ、Wnt3やMMP、VEGFを産生することで、皮膚がんの発症?進展に関与することが明らかとなった(図5)。

図5ケモカイン受容体(CX3CR1)が欠損しているとM2マクロファージの集積が減少する

 

3.波及効果

ケモカイン系CX3CL1-CX3CR1が、皮膚がん発症?進展において、皮膚へのM2型マクロファージの遊走およびWnt3やMMP、VEGFの発現に関与していることを解明した。これらのことから、今後CX3CL1-CX3CR1系を分子ターゲットとする新たな治療薬の開発が期待される。

 

掲載誌

Pivotal Involvement of the CX3CL1-CX3CR1 Axis for the Recruitment of M2 Tumor-Associated Macrophages in Skin Carcinogenesis.
J Invest Dermatol. 2020 Mar 14. pii: S0022-202X(20)31195-7. doi: 10.1016/j.jid.2020.02.023.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022202X20311957?via%3Dihub

用語解説

ケモカイン
Gタンパク質共役受容体を介して作用発現をするタンパク質で、白血球などの遊走に関与している。走化性(chemotactic)に関わるサイトカイン(cytokine)なのでケモカインと呼ばれている。

CX3CR1
ケモカインCX3CL1に結合する受容体、免疫監視機構において、白血球の遊走を指令し、炎症性および感染性疾患において重要な役割を果たす。

M2型マクロファージ
マクロファージはその役割によってM1型とM2型に大別される。一般的に、M1型マクロファージは病原体や寄生虫感染防御に働く一方、M2型マクロファージは組織修復などにかかわるといわれている。

和歌山県立医科大学法医学講座 石田裕子?近藤稔和
和歌山県立医科大学皮膚科学講座 山本有紀
金沢大学がん進展制御研究所 向田直史

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